朽ちていった命―被曝治療83日間の記録
新潮社 刊
発売日 2006-09
読後に思うこと 2007-04-27
いのち云々も確かに目を引くのですが、それ以上に私が感じたのは、この患者には選択の余地があったのかということも疑問です。
「やめてくれよ」「おれはモルモットじゃない」という患者の意見は見事に無視されていたわけです。
私はこういった典型的なパターナリズムには反対で、ICの概念に賛同する立場だからそう思うのでしょう。
「致死的な量の放射線を浴びたことを大内に知られないよう、ラジオをかけることは出来なかった」
というくだりが非常に残酷で、私から見れば「お前は何も知らなくて良いんだよ。後は私達に任せなさい」
という治療側の傲慢な体制にも思えてしまうわけです。
それもそうで、患者は自らの病気のことについて何も知らなくて良い、その方が楽だからです。
当時の看護婦の回顧や治療スタッフの発言も欺瞞的です。
「がんばった」とか「奇跡がおこる」だの、およそまっとうな医療に関わる者の発言とは思えない
ものが散見され、非常に残念に思いました。風邪や骨折やその他根治の可能性がわずかでもある
病気との戦いであれば、「がんばった」も良いとは思いますが、99年当時の医学会で「病気が
治らないことを前提にした患者のケア」という概念が現場でどれほどあったのか分かりませんが、
何とも歯がゆい思いです。
勝つ見込みの無い戦いだからこそ「奇跡」をあてにしたのでしょうが、それは戦に及んで神風をあてにする
兵家と何が違うのでしょうか。その「奇跡」に賭けた結果、過酷な代償を喰わされたのは誰でしょうか。
未曾有の事件の患者だからこそ、治療スタッフの後学の為「生かされた」哀れな命にはいたたまれません。
無論医学的・社会的には非常に良いデータが採れたことで評価できるでしょう。
ただ「いのち」に重きを置くならこの患者に全てを説明してどうするか選択させるべきでした。
それが「尊厳」というものを護ることにもつながり、ひいては治療スタッフが後々語っている
後悔じみたものもなくなるわけです。
治療スタッフが後悔するということは、つまり患者が何を求めているか分からなかったから、
雑談以外の意思の疎通がなかったからに他なりません。
最後の方で看護婦の花口氏の回顧のくだり。「大内さんの声が聞こえない限り(中略)ものすごく
重大なことを強いてしまったのか(中略)大内さんに答えて欲しい。」そして、「花口は、今でも
大内と対話を続けている」とありますが、今頃対話して何になるのでしょう。生きているうちに
全てを対話して全てを説明していれば対話も何も出来たはずです。「あの人は全てを知った上で
自分で決断した」それで誰が後悔するでしょう。
何とも後味が悪いものでしたが、原子力を扱う現場での人命の地位の低さが露呈されたこと
が分かっただけでも幸いでしょう。
人間の命とは、、、 2007-04-04
どんなにちいさな羽虫にも命はきめられている。
人ははたして尊いかと言うとやはり沢山の死とであった
わたくしとしてもやはり誠とに尊いと言葉にしてしまう。
柳田氏がおっしゃるとおり、これは闘いである。
人の魂と医者の虚しさと家族の涙と、、、
すべてのものが原発の事故にはあった。
まず読んでみて欲しい、推薦いたします。
亡くなられた御霊へ 合掌
決して忘れてはいけない!! 2007-02-13
読んだ後、かなりのショックだった。その状態がしばらく続いた。頭の中を、読んだ
ばかりの本の内容がぐるぐると回っていた。これは人的災害だった・・・。マニュ
アルを無視した、あまりにもお粗末な作業内容。安全性の考慮のかけらもない。
大量の放射線を浴びると人はどうなってしまうのか?それは恐怖の一言に尽きる。
骨髄細胞の検査で判明した染色体の破壊。そのことは、今後新しい細胞が作られ
ないことを意味していた。古い細胞から新しい細胞への入れ替わりがない体。再生
できない!朽ちていくだけなのだ。現代の最新医療をもってしても、それを止める
ことは不可能だ。こんなにも放射線被爆というのは凄まじいものなのか。遺伝子
レベルでの破壊が起こるのだ。最後まであきらめることのなかった大内さん本人、
ご家族の方たち、そして医療現場の方々。壮絶な闘病記録は、読んでいて胸が痛く
なるほどだった。
原子力の利用。それはこれからも続くのだろう。原子力を利用しようとする限り、
この事故のことを決して忘れてはならないと思う。つねに危険と隣りあわせだと
いうことを認識していなくてはならない。あらためて、この事故の犠牲者の方々の
冥福を祈りたい。オススメです!!
記録しあまねく伝えるべき内容―被爆の恐ろしさ 2007-02-01
人災だったという。運ではない。運命でもない。人災の悲惨な結末がどのようなものであったか、唯一の被爆国である日本で、被爆の恐ろしさを無視した安全教育が徹底されていない国と企業の中で、何が起こったか我々は記憶すべきである。
事故の内容ばかりではない。どのような治療が行われたのか、一体人体は被爆によってどのような影響、どのような損傷を負わされたのか、「遺伝子に傷がつく」ということが何を意味しているのか、我々はその事実を知り、恐ろしさを認識し、新しい世代に語り継ぐべきである。
「憲法9条」云々と論議する前に、きちんとなされるべき教育、守られるべき安全、語り継ぐべき戦争と平和、利益追求の前に徹底されなければならない、一人一人の命の尊厳に対するありようを、もっと自分達の手に取り戻さなければならない。
この本の中の写真を目を背けずに見るべきである。少なくとも大人はきちんと知っておかなければならない。そして、伝えなければならない。あれからまだ、10年も経ってはいない。なのに風化させてはいけないものを、忘れようとさせる者達がいる。少なくとも、記録されたものをこの本で、映像記録で繰り返し伝えて欲しいと思う。
身体が内側から溶けていく・・・ 2006-10-28
1999年の東海村臨海事故被曝患者と医療チームの壮絶・凄絶な83日間の記録。
被爆治療の限界。延命治療はどこまで必要なのか。被爆した大内さんが意識がある内に放った言葉「おれはモルモットじゃない」。被爆直後の様子から、意識を失った後、加速度的に悪化する皮膚の状態・内蔵の状態。
医療チームスタッフのインタビューから、延命治療の是非という重すぎる問題の前に懊悩する家族・スタッフ。致死量を大きく超える放射線を浴び、「医学的」に生存の見込みはほとんどない患者なのに延命治療をする意味は?変わり果てた大内さんの姿を前にして心が揺らぐ。
放射線という現代医学の知識を遥かに超えた悪魔を前にあがき苦しむ様には一抹の虚しさを感じつつ、家族とスタッフの気持ちに通底する、大内さんの奇跡の回復にかけた愛に息が詰まる思いで読了しました。本書のもとになったNHKスペシャルを観ていないので是非再放送を望みます。
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